土曜日, 9月 04, 2010

【クラウドコンピューティング】 経済産業省の報告書にケチつけてみる このエントリーを含むはてなブックマーク


 経済産業省は8月16日、「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」の報告書を公表した。これがなかなかよくまとまっていて面白い。なかでも活用事例がすばらしく、医療分野、ITSテレマティクス、農業、スマートコミュニティーなど、想像性豊かに語られている。全体的に大変わかりやすく読みやすい内容となっているので、ぜひ読んでみることをおすすめする。

「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」の報告書

でもなんだか、ものたりない


 
 ITにより国民生活全般にわたる質の向上を図る」という目的の達成に向け、理想的な将来ビジョンを展望する、というのがこの報告書の目的であり、下図にあるように、イノベーションの創出、制度整備、基盤整備が大きな柱となっている。制度整備については異論はないのだが、イノベーションの創出や基盤整備については、何というか、IT業界まかせな感じが大きく、国のレベルでやる話になっていないので、ちょっと残念である。



 例えば、報告書の冒頭では、20世紀に発電所がもたらした変革に触れ、クラウドも国家事業であるかのような感じで書かれている。


 電力供給が、自家発電による自前供給から発電所と送電網を保有する電力供給専門の事業者による供給へと代わることによって、様々なイノベーションが実現し、20世紀の人々の暮らしと仕事は大きく変化した。電力に続く一般目的技術(経済・社会を広範にわたって変革する基盤的技術)である情報通信技術は、情報の処理・保管を専門業者に委ねる「クラウド革命」いよって、今後ますますその進化を発揮していくであろう。・・・クラウドコンピューティングの普及・活用を、わが国の新しい成長戦略の柱の一つに位置づけ、積極的に推進すべきである。


 ところが中身は現状の分析と方法策について述べられているだけである。構想やロードマップは、まるでどっかのIT企業が考えたような内容であって、とても国家レベルのものには見えない。



クラウドデータセンターは国家プロジェクトにすべき



 自前供給から発電所への変化をいうなら、かつての新幹線や原子力発電所のときのように、準国営企業をつくり、国家プロジェクトとして大規模データセンター建設し、電気やガスのように各家庭に提供すればいい。実際にそこまでやらなければ生活は変化しないし、イノベーションが実現することもないだろう。

 プラットフォームの整備について、国家レベルで考える政治家が少なくなったのも背景にあるのかもしれない。最近は助成金や減税だけが議論されているように見受けられるが昔はこういう政治家もいたものだ。


日本における原子力発電は、1954年3月に当時改進党に所属していた中曽根康弘、稲葉修、齋藤憲三、川崎秀二により原子力研究開発予算が国会に提出されたことがその起点とされている。この時の予算2億3500万円は、ウラン235にちなんだものであった。なお、この時の提出者の一人[誰?]が、後にこう言ったとされている。

「学者がボヤボヤしているから、札束で頭をぶんなぐってやったんだ」[7]

これは、1952年に原子力研究が再開された後にも、結局二年近くなにも行動を起こさなかった日本学術会議への皮肉であったと考えられる。・・(wikipedia)


 もちろん、国が急速に進化する技術革新に対応できるかとか、市場原理、競争原理を阻害する不当介入にならないかという心配もある。箱物公共事業への反発もあるだろう。適切な競争政策も重要だが、国レベルじゃないと解決できない課題もあり、ここは踏み込んでもらいたいところである。例えば、私はクラウドの最大の課題はセキュリティと思っているが、クラウドに委ねるリスクの解決は国家機関であれば難なく行えるし、国であれば中立性と安全性を担保できるため、将来にわたってベンダーロックインを防げ、個人情報/企業情報を安心して預けられるだろう。

 繰り返しになるが、制度整備については全く異論はない。規制遵守や紛争解決などの政府の関与が必要となるものもある。責任の明確化は大いに結構。政府が、「個人情報保護法」上の取扱いや、データの流通・二次利用に関するルールの明確化(セーフはーパーの形成)を行うことは重要である。また、個人情報の取扱い以外にも、著作物の利活用、匿名化情報の取扱い、国内外のデータセンターを利用する上での制約なども整備していく必要があるだろう。

 また報告書ではあまり強調されていないが、クラウドは安く使えなければ意味が無い。経済性を重視し、徹底したコスト管理を行う必要がある。例えば、コモディティ製品やオープンソースの活用、Scale Out技術をベースにしてVMとプロビジョニングによるリソースの効率利用。もちろん、国民1億人全員が安い利用料で安心して使えるようなクラウドなんて簡単にできるとは思っていないが、でもそれはそれで大きな技術的なテーマとして研究していけばいいんじゃなかろうか。これを実現できれば世界に向けて提供したり、輸出できるようになるというものだ。

イノベーション創出には支援が必要。新流通基盤作りを急げ



 最後に、イノベーションの創出について。

 報告書にあるような「大量データを利活用した新サービス・新産業を創出」ができるようになるには、大規模なコンピュータリソースが必要になる。イノベーションは一人の天才がいれば起こりうるが、このご時世、何十万台というコンピュータを自由に使えるのはGoogle社員ぐらいである。また、裾野を広くして、豊富な人材を集めることも必要だろう。大学教育というより、チャレンジャー精神をもった多くの国民に機会を与えることが重要だと思う。
 ただ、国民に環境と機会を与えるだけでGoogleのようにイノベーションを創出できるほど甘くもないだろう。環境と機会を与えることは必要だが、かつ、クラウドによる新たな経済圏がうまく機能しなければならないと思う。
 現在のクラウドサービスは、オープンソース文化、何でも無料というチープ革命の延長線上にある。Googleでさえ、主な収益源は広告であって、エンジニアが作ったソフトウェアを売って儲けたりサービスの利用料をとったりしているわけではない。私たちもそうだが、請負業務をやりながら一方でイノベーションを創出するのは難しい。こういう現状を踏まえて考えると、政府がGoogleのような役まわりで開発者に援助をするか、サービスによって直接利益を得られるような新しい経済流通の仕組みが必要になってくるだろう。それがもしかしたら、AppStoreやGoogle MarketPlaceになるのかもしれないが、このような新流通基盤については、報告書では触れられてなかったのが残念である。

0 件のコメント:

 
© 2006-2015 Virtual Technology
当サイトではGoogle Analyticsを使ってウェブサイトのトラフィック情報を収集しています。詳しくは、プライバシーポリシーを参照してください。