木曜日, 11月 26, 2009

【クラウドコンピューティング】 エンタープライズシステムのクラウド移行について このエントリーを含むはてなブックマーク


 世界的な不況が続く中、競争力のある強い体質の企業になるためには、大幅なコスト削減が必要である。とりわけ、ITシステムへのコスト削減圧力は大きく、これに対応するためには、アーキテクチャー見直しや内製化などを含め、抜本的な改善していかなければならない。
 Privateクラウドは、ITシステムのコスト削減の一手段として考えることができ、こういった課題に対応できる可能性をもつと考えられる。
 今回は、Privateクラウドをテーマに思うところを述べてみたい。

Privateクラウドはクラウドではない?

 11/22の日経新聞にクラウドの特集があった。
 そこには、クラウドの定義ははっきりしないが、「ネットの向こう側にあるソフトなどのIT資産を使う」という概念が基本となると書いてあった。また、誤解に関して以下のような感じで書かれてあった。


 クラウドがブームになり、最近は関連する一部技術を入れ込んだだけのサービスにもその名が付く。「企業内クラウド(プライベートクラウド)」。「仮想化」という技術を企業内のIT資産に適用したもので、効率的な社内システムを構築できるが、「ネットの向こう側」を利用するクラウドの本質からは外れている。こうした拡大解釈が広がれば、利用者の誤解を招きかねない。利用する側も注意が必要だ。


 まあ、クラウドは一般的には「ネットの向こう側」と解釈されるのだろう。
 でも私は、クラウドの本質と動向にも書いたとおり、あくまで「抽象的に定義されたデータベースサービスへのアクセス手段」と考えていて、また、べらぼうに安いこと、およびリニアにスケールすること、の2つのポイントも重要だと考えている。なので、企業内にあっても外部にあっても、上記が満たせるのであれば別にクラウドと呼んでもいいと思っている。別に「ネットの向こう側」になきゃいけないわけではない。具体的には、今後はDHT(Distributed Hash Table)技術を使った分散KVS(Key Value Storage)などを応用したものが企業内クラウドの代表的なものになっていくんじゃないかと考えている。
 一方で、「ネットの向こう側」にありながら、全然安くないクラウドもたくさんある。GAEやAmazonEC2などは、CPU時間あたり$0.10、Storageは$0.15 (GB/Month)でほぼ足並みをそろえているのに対し、日本の某通信会社のPublicクラウドは十数万円と2桁の差がある。利用する側が注意しなければならないのは実はこっちの方である。

企業内クラウドもコストとスケーラビリティは重要


 分散KVSといったクラウド技術を企業内システムに応用することで得られるメリットは、コスト削減とスケーラビリティ向上の2つである。
 まず、トランザクション増加に対応するためには、ノードの追加だけでリニアにスケールするような仕組みが重要である。それから、基幹システムであるからにはAvailabilityも重要となる。一部が故障しても自動的に切り離されて問題なく動作しつづけるような高可用性システムをいかに構築できるかが鍵となる。
 コスト削減効果として期待できるところは、コモディティサーバとオープンソースの活用によるインフラコストの削減である。実際に、ノードはIAアーキテクチャでLinuxベースのコモディティサーバを使えばいいし、ソフトウェアに関しては、実際に動的なノードの追加削除を可能とするDynamoクローンのオープンソースもある。このように、クラウドの仕組みを、今ではコモディティサーバとオープンソースで実現できる。
 2点目は、内製化により「脱ベンダー依存」ができるという点。つまり、コモディティサーバとクラウド技術を活用したオープンなアーキテクチャーを構築することで、ITベンダーの固有のアーキテクチャーに依存しないシステムを構築することが可能になるということ。これまでベンダーによる見積もり(お手盛り)をせいぜい値引きするぐらいしかできないのが現状であった。
 オープン技術の組み合わせでエンタープライズシステムを構築できれば「脱ベンダー依存」が進み、ベンダー独自の技術に依存してきた弱みから脱却できるようになる。
 ITベンダーによるボトムアップ提案から利用者自身によるトップダウン調達。コモディティサーバなどの部品調達レベルの取引になっていくことで、エンタープライズシステムの価格破壊は必至となる。

価格シミュレーション

 実際にどれくらい安くできるのかを調べるため、具体的にTPC-Cベンチマークを元に価格比を計算してみた。

 1) Scale-up型の最高モデルであるIBM p-595とコモディティサーバHP ML350とを比較すると、単純CPU能力換算でCostは1/4となる。
 2) HA構成(マシンは2台)とクラウド構成(マシンは3台)で比較するとCostは1/3となる。(クラウド構成でマシン3台を根拠とする理由は、Quorumプロトコルで推奨されるのがN:R:W=3:2:2であること。実際のDynamoの冗長ノード数が3台であることなど)

 もちろん、場所代や電気代など、計算に含まれない要素はある。極めて一面的な見方しかしていないが、PrivateクラウドのHWコストメリットは、ざっくり、1/3~1/4となる。
 面白いのは、IBMの機種どおしで比較してもコストメリットは見出せないということ。おそらく、全プラットフォームでPrice/Performanceが2.5前後になるような戦略的な値を設定しているのだろう。



 もう一つ、特筆したいのがHWに及ぼす影響についてである。
クラウドは、Scale-up型のハイエンドサーバから、Scale-out型のIntel Xeonベースのコモディティサーバへの変化をもたらし、さらには、FAWNといったようなローエンドプロセッサとフラッシュメモリのクラスタへの変化を促すだろうと考えられている。そして最後には、シングルチップ・クラウドコンピュータへの進化に行きつく。クラウドのイノベーションは、複数のCPUが疎結合で連携するような処理を、1チップのなかで実現することを可能にする。



クラウド化による新たな課題


 安価なハードウェアの導入とオープンソースの利用を中心とした、エンタープライズ・システムのコモディティ化は、コスト面やスケーラビリティにおけるメリットが大きい一方で、以下の新たな問題を生むこともわかっている。

 
 1)リスクを利用者自身が負うことになる
 2)システムが複雑になる分、運用管理が大変になる


 脱ベンダー依存を成し遂げたら、すべての責任は利用者自らが負うことになる。これまで、システムの調子が悪かったら何でもかんでもベンダーの責任にできたところが、そうはいかなくなり、自分自身で大きな不安と苦しみを抱え込むことになる。
 また、これまでの2~3台であったシステムが100台近くに増えると、運用の仕組みが大きく変わってくる。例えば、バックアップを取る際には、全ノードを一旦Read Only状態にしたうえで実行しなければならない。また、ソフトウェアの配布などを100台一斉に実行するような仕組みも必要になってくるだろう。このあたりは実際に運用してみると、もっと大きな課題が出てくると思われるが、いずれにしても運用をいかに効率よくやっていくかが重要なポイントであることは間違いない。(Googleはこの点がすばらしいと思う)

マイクロソフトとAzure戦略

 日経新聞のいうところのクラウドの本質は「ネットの向こう側」を利用することであった。前述したように、私から言わせれば、PrivateとPublicの違いはコストだけなのだが、コストメリットだけ考えると、Publicクラウドの利用は大変魅力的であり、エンタープライズにおいて活用できれば非常に大きな競争力となるのは間違いない。とにかく、Publicクラウドはべらぼうに安い。
 AmazonやGoogleには、それぞれがEC、検索エンジンといった本業をもっていて、システムの余剰なリソースを貸し出せるという利点がある。もちろん、スケールメリットがあり、電力効率などを含めたデータセンターの効率的な運用数値PUEがずば抜けてよいことも知られている。

 当分の間は2強の時代が続くと思われるが、猛烈に追随しているマイクロソフトのAzureも気になるところである。繰り返しになるが、ポイントはコストとスケーラビリティの2つ。安さという点で2強を追随できるのか、あるいは、スケーラビリティの点で優れた技術を提供できるのか。

 本来、Windowsはコンシューマから発展したOSで、基幹システムでの利用が進んでいるとはいえ、ミッションクリティカルで大規模なシステムはあまり得意ではなかった。前述したような、IBM p-595サーバとは、比較すらできなかったのであるが、Azureでもってスケーラブルシステムが構築できるようになれば話は別である。セキュリティ、コストといった課題はあるものの、エンタープライズに踏み込める可能性がさらに大きくなったといえる。

<追記>
 日経BPの中田さんによるAzure IT PACの写真

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